冬の花

「あの日…。
あの日、父親に殴られてる時に、抵抗して父親の体を突き飛ばしました。
父親は倒れてテレビ台で頭を打ち、亡くなりました。
私は怖くなって、父親を家にあったブルーシートにくるんで、
玄関にあった台車であの湖まで運んで棄てました」

その供述は、ずっと考えていた私の嘘。

もし私が捕まるのならば、
警察にそう言おうと決めていた。

阿部さんの存在は、一切話さない。

『けっこう杜撰な犯行だね。
あなたが今言ってる事が本当だって、証明出来る?』

「出来ないです。
だけど、あの日何が有ったかは私しか知らない。
例えば、その運んだ台車に父親の血が付いていたとしても、
あの家が燃えた時にその台車も一緒に燃えてしまったでしょうね」

あの家の玄関に、錆びた大きな台車が有った。

主に廃品回収の時等に使用していた。

今、阿部さんにはそれは燃えて、と話したが、
あの家を引き払う際に、裕子さんが業者を使い、あの家に残っていた家具等は、全て処分してくれたと、昔話していた。

『きっと、あなたのその供述で逮捕出来るだろうね。
警察内でも、あなたが一番疑わしいと思われているから』

「そうでしょうね。
私、今、鳴海さんと一緒に居るのですが、
今の会話をこうやって鳴海さんに聞かれているから。
私はもう後戻り出来ないんです…。
だから…今直ぐY駅近くにあるこのホテルに捕まえに来て下さい…」

『悪いけど、今直ぐにはあなたの居る場所へは行けない。
ニュース見てない?』

そう言われ、私はテーブルの上に有ったリモコンで、
テレビを付けた。

テレビはちょうどニュースがやっていて、
民家に拳銃を持った男がそこの住民を人質に取り、
立て籠っているらしい。

それは、ここと同じK県で、
ここから車で30分程の場所。

「立て籠り…」

『そう。今、俺も現場に居て、
とてもこの場所から離れられない』

「だけど、そんな事件よりも」

『悪いけど、俺はあなたを逮捕しない。
今夜一晩ゆっくりと眠って、最後にちゃんとその舞台挨拶を終えて、
出頭すれば?』

そう言われ、私が何も言えないでいると、
「もう切るけど」
そう言って、一方的に電話が切れた。