「どこに行くの?」

夜が更け、終電に間に合うように私はホテルから出たが、
数メートル歩いた所で、背後からそう肩を掴まれた。

てっきり、それはマネージャーの長谷川君かと思ったが、
振り返ってみると私を引き留めたのは鳴海千歳だった。

「鳴海さん来てたんですか?
てっきり、明日の朝に来るかと思ってました」

今回の映画の脚本家である鳴海千歳も舞台挨拶に参加するが、
色々な仕事を抱えて忙しい彼は、
明日の朝直接映画館に来るとスタッフから聞いていた。

「そのつもりだったんだけど、
この雪だし、朝新幹線が動かない可能性もあるから。
今やっと着いたばかり」

あの日のように、今日は雪が降っている。

この地方は、この時期いつもこんな感じ。

「それより、こんな雪の中、傘もささずにどこに行くの?」

「鳴海さんも、傘さしてないじゃないですか?」

私と同じように、鳴海千歳も傘をさしていない。

私はすぐにタクシーを捕まえるつもりだったから、
傘は持たなかった。

「俺は、チェックインしてる時に、
出て行く君の後ろ姿が見えたから、気になって。
傘、フロントに置いて来てしまった」

言われてみると、
鳴海千歳は大きな鞄を肩にかけている。

本人の言っているように、
慌てて私を追いかけて来たのだろう。

「なんか心配させたみたいですけど、
ちょっと、コンビニに行こうと思っただけですよ」

私がそう笑い飛ばすと、
鳴海千歳はその表情を一層険しくした。

「父親の殺害現場でも見に行くつもり?
それとも、発見されたとか言う湖」

その言葉に、違う、と首を振った。

「ホテルのロビーのソファで新聞読んでるおじさん、きっと刑事だよ。
軽率な行動はしない方がいいと思うけど」

その言葉で、私は冷静さを取り戻して行く。

私は、父親が見付かってから、焦っていた。

「とにかく、俺の部屋で話そう」

その言葉に、頷いた。