冬の花

「…もう辞めてあげて下さい」

私のその言葉で、阿部さんはロープから手を離して、立ち上がった。

佑樹が、死んだ…。

目の前に佑樹の亡骸が転がっていても、
これは現実じゃないのかもしれないと思ってしまう。

最後に聞いた、佑樹の気持ち。

佑樹は私が好き。

もし、もっと早くそれを言ってくれていたら、
私は佑樹を殺したいと思わなかっただろうか?

いや、あの日の事を見られている以上、こうするしか無かった。

私の事以上に、阿部さんを犯罪者に出来ないから。

そう考えると、少し冷静さを取り戻して来た。

佑樹を殺して、終わりじゃない。

「阿部さん。
あの家はどうしましょう?
私が昔住んでいた、あの家。
父親の血とか、目に見えないけど残っているかもしれない。
阿部さんの指紋も。
佑樹は居なくなったけど、あの家がある限り、完全に安心出来ない」

そう。

あの家がある限り、まだ安心出来ない。

もし、父親の遺体が見付かったりして、
あの家を捜査されたりしたら?

そうじゃなくても…。


「家…」

阿部さんはそう呟くと、佑樹の方へ視線を向けた。

そして、あの家はもうないんだよ、と口にした。