冬の花

「眠って貰うのは、暴れられたら困るからだよ」

阿部さんはそう言って、
佑樹に近付きその背後に立った。

「言い残す事はある?」

阿部さんは、椅子に座ったままの佑樹の首に、
ロープをかけた。

それは、私の目の前で行われている。

本当に、阿部さんは佑樹を殺すんだ…。

覚悟はしていたのに、いざとなると迷いが出る。

私が今ならそれを止められるんじゃないかって。

「ここ来る前に、同期の長谷川に電話した」

その佑樹の言葉に、えっ、と息を飲む。

今から、自分が私達に殺される事を誰かに伝えたのだろうか?

その長谷川さんって人に。

もし、自分に何かあったら、私を疑えとか…。

動揺する私と違って、阿部さんは表情を変える事なく、
冷たく佑樹を見下ろしている。

「仕事が嫌になったから、暫くバッくれるって。
頃合い見て、社長にそれを話しておいてって…。
一週間…、いや、1ヶ月は俺が姿消しても、
これで誰も探したり心配はしないと思う。
スマホも、処分に困るだろうから、
電源消して部屋に置いて来たし…。
後は、お前達がどうするのかは知らないけど…」

「なんで…」

何故、佑樹は私達の為に、そんな根回しをしたのだろう?

一体、何を考えているのか、分からない…。

「阿部さんだっけ?
あんたの事は憎いけど…。
あかりの事は犯罪者にするわけにはいかない…」

そう言って私に向ける佑樹の顔は穏やかで、
いつも私に向けていたあの苛立ちも感じない。

「俺、あかりがずっと好きだったんだよ」

「…嘘でしょ…」

佑樹がこの場面でそんな嘘を付くとは思わないけど、
だからって、佑樹が私を好きだなんて信じられない。

「そうだよな…。
信じられない…よな。
俺、あかりの事を好きな気持ちを押さえ付けるように、お前をずっと嫌って憎んで来たから…。
小学生になったくらいに、お前と関わるなって親から言われるようになって、
親に逆らえなくて…。
俺以外の奴がお前と仲良くなるのが許せなくて、
俺がお前をいじめていたら、他の奴らもお前をいじめ離れて行くから。
頭のどっかでは、あかりに酷い事してるって分かってたけど、
そんな事よりも、お前を憎まないと苦しかった…。
近くに住んでいて、嫌でも目に入って…。
ずっと好きで…。
5年前、お前があの村から居なくなって俺の前から消えてくれたのに、
女優なんかになって、忘れさせてくれなくて。
俺も俺で、こうやって会いたくてまたお前に近付いて…本当に俺自身何がしたいのかよく分からない」

そう言った、佑樹の目から涙が溢れて、零れ落ちる。

「俺は、あの家やあの村から生きてる限り逃げ出せない…。
きっと、ずっと死にたかった…」

その言葉と同時に、
阿部さんがロープを持つ手に力を入れた。

それは、とても長い時間だった。

死を望んでいるように見えた佑樹だけど、
その苦しさから逃れようとして、
そのロープを外そうと抵抗していた。

暴れて椅子から転がり落ち、
床に倒れ込んだ佑樹を押さえ付けるように阿部さんは上に乗り、
そのロープを絞め続けた。

佑樹が静かになり、それから暫くしても阿部さんはその手を緩めなかった。