冬の花

「本当に、近くに住んでいると色々と見てしまうよな」

「佑樹、信号変わっているよ」

先程から信号は青に変わっているが、
佑樹は車を発進させない。

幸い、後列の車はない。

深夜なのもそうだけど、
元々車通りの少ない道だからだろう。


「あの日、俺見たんだ」

佑樹のその言葉に、私の頭の中に蘇るあの日は、あの日しかない。

あの大雪の日、阿部さんと一緒に父親を運んだ。

「俺、部屋の窓から外を見てた。
雪、どれくらい降るのだろうって。
勉強に行き詰まって、ただの気分転換だった。
そうしたら、お前の家の横にパトカーが止まってて。
暫くしたら、お前とあのお巡りが青いビニールの塊みたいなのをそのパトカーに運んでて。
暫くしたら、お前の父親は行方不明って…」

何か、言わないと。

この場を乗り切る嘘を。

何も思い付かないどころか、
頭の中が真っ白になって行く。

「お前、父親を殺したのか?」

その言葉に、なんとか首を横に振れた。

「なぁ、あの日見た事を誰にも言われたくなかったら、
俺の言う通りにしろ」

「なに…言ってるの?
私は…殺してない」

「じゃあ、あのお巡りか?」

その言葉に、阿部さんが父親を殺した場面が、
鮮明に頭に浮かぶ。
父親の頭から流れ出す、赤い血の色…。

「違う…、誰も殺してない…。
阿部さんも…」

私がそう言うが、佑樹はニヤリ、と笑い、私に顔を近付けて来る。

「あのボロ屋、調べたら父親の血痕とか出て来るんじゃねえの?」

あの家は、今は…。

裕子さんに引き取られてから、
半年程は裕子さんがあの部屋の家賃を払ってくれていた。

だけど、頃合いを見て、私は裕子さんにそれはしなくていいと言った。

父親がもう戻って来ない事を知っている私は、
あのボロ屋は必要ないから。

きっと、今もあの家は誰も住まずに空家だろう。

あの家の持ち主は、佑樹の父親…。


だから、佑樹だって簡単にあの家に出入り出来るはず。


「俺の言う事聞けば、黙っててやるから。
あのお巡りさんを殺人犯にしたくないだろ?」

その言葉に、小さく頷いた。