「お嬢様から、朝宮様には家の中でお待ちいただくよう言われております。お嬢様はすぐに参りますので、どうぞ」と、応接間らしき和室に通された。

いちいち冷汗が出るようなご丁寧な対応に、庶民の俺はおっかなびっくりだ。

ほどなくして襖が開かれた。

着物姿の湖蘭さんが、手をついて頭を下げた。

「お待たせいたしました」

「いえ、こちらこそすみません、お忙しいときに……」

俺が返すと、湖蘭さんは音を立てない動作で部屋へ入り、続けて普段着といった感じの時さんも続いた。

湖蘭さんが俺の前に座って、時さんは扉の近くに正座した。

うわあ……こういうの恋人同士でもあるんだ……。若干、どうしていいかわからない。

「湖月のことでしたね。何かありましたか?」

切りだした湖蘭さんに、びびっていた俺の意識も目の前の問題に向く。

「はい。……その、伽藍がこーちゃん――湖月さんに嫁になれって言ってる理由を知りたくて……ですね」

「湖月の彼氏さんですものね、気になりますよね」

湖蘭さんは落ち着いた表情で話す。う……それは……。

「あ、あと、湖月さんの記憶がないっていうやつなんですけど……俺、もとは湖月さんの家の隣に住んでいたんですけど、この前湖月さんのお母さんと逢うことがあって……でもなんか、違う気がして……何が違うのかは俺もよくわからないんですが――って、え?」

俺のつたない説明を聞いた湖蘭さんが、大きく目を見開いていた。

……え?