好敵手~真実探求ハムカイザー

 森市〆と孔巾空歩は早速、向かいのスーパーの不二家 峰子(ふじうち みねこ)に[ラブ・ラブ・ポーション]の企画を持ちかけた。峰子は生真面目な人間なので〈お客様に喜んで戴けるなら。〉と森市を信じて言われた内容を忠実に実行してくれた。〈想定した通りだ。〉と森市は笑いが止まらない。

 峰子は緑茶五右衛門に〈お客様、私のレジへどうぞ。〉と耳元で囁いたり、レジで手を握ったりした。
 しかし緑茶は〈おじさんををからかってるの。〉となかなかハニートラップに掛かってくれない。そこで森市は[泣き落とし作戦]に変更した。峰子に[緑茶をレジで接客する時は泣くように]と指示をしたのだ。さすがの緑茶もこれ以後は峰子を意識するようになった。  
 ここで森市は仕掛けた。峰子を豹変させる作戦だ。

 ある日突然、峰子は緑茶を指差し、
「この人ストーカーなんです。顔も見たくありません。」
と言って売場から逃げ出した。峰子は森市の指示通りに行動しただけだったが、スーパーの店長が警察に通報して大騒ぎとなった。
 この際、男性の巡査長と一緒に行動を取ったのが西郷俊介の姪の短袴 亜莉須(たんこ ありす)だ。
 そして亜莉須は致命的な初動ミスを犯した。峰子と店長の言葉だけを一方的に信じて緑茶からは話を全く聞かなかった。緑茶はTHK(帝国放送協会) 宮崎に携帯から電話を掛け、通話状態のまま亜莉須とやり取りをした。
 巡査長は店のスタッフに今までの経緯を聞いて回っていた。スタッフの証言で峰子の方から緑茶に声を掛けた事実があり、話が一旦落ち着いた。
 この時の緑茶と亜莉須との会話は内容が全てTHKに筒抜けとなってしまい、THKの電話機には亜莉須が金切り声を張り上げ喋る様子までしっかりと録音された。
 緑茶は県警の対応に納得できる筈もなく、
「後日、こちらから署に伺い事情を説明します。」
そう言って帰った。

 緑茶五右衛門が警察に不満を持った事は日之影真と(みのる)にとっては好都合だ。この小説家を操って宮崎の自虐小説を書かせればいい。森市〆なるラジオパーソナリティに強力な脚本家が加わることになる。光にだけ焦点を当てるのではなく、影にも焦点を当てて貰うつもりだった。
 真はその夜、緑茶にの部屋に影となって侵入した。執筆中の緑茶に絡みついたのだが、いつもとは勝手が違うのに気づいた。緑茶は峰子にストーカー扱いされた事を不満に思ったのではなく、むしろ小説の題材として前向きに捉えていた。
 真は緑茶を操れない。緑茶は絡みついている影に向かって話しかけた。
「執筆のパソコン入力で肩が凝っているんだ。肩のあたりにマッサージするように絡みついてくれないか。」
 真は実体化して緑茶に言った。緑茶は驚く事もなく、ただただパソコンに入力を続けている。
「一本取られたな。今度、警察署に行く時は俺もお前の影として同行して、じっくり見させてもらうぞ。」
「 一人より二人の方が心強い。楽しみだ。」
 緑茶は真に言った。
 真は緑茶が何を執筆しているかパソコンを覗き込んだ。執筆していたのは『天使になりたかった魔女』という小説だった。
 緑茶は不二家峰子をダークヒロインではなく可愛らしい女性として描写している。緑茶は真に言った。
「 テーマは〈愛こそすべて、愛は勝つ〉だよ。」
 真はこの男を操るのを諦めた。少し距離を置いた第三者としての友人にしたくなった。そして言った。
「俺はハムカイザー。以後よろしくな。」