「もう呼んでくんないの?」

『なにが?』

「俺の名前」

最初はお互いに名字呼びだったけれど、途中で名前に変わった。たしかそれも俺が強引に言い出したことだった気がする。

『……まあ、呼ぶ時があれば』

「その言い方、二年前と一緒!」

思わず吹き出した。なんでだろう。毎日楽しいし友達もいるし不満もない。だけど、響は他の誰とも違って、あの頃に感じていた気持ちが沸々とよみがえっていた。

「なあ、……明日も電話していい?」

繋ぎ止めたいなんて図々しいことはもう言えない。

でも、指先ひとつで声が聞ける電話だけでも繋がっていたいと思う。

響は迷っていた。わずかな間、沈黙が続く。

『……いいよ』

キジバトの声に掻き消されそうなほど小さな返事だった。

明日も響と喋れる。少しは成長してるはずなのに、あの頃と同じでバカみたいに嬉しくなっていた。 

「ありがとう。じゃあ、そろそろ切るな。おやすみ。また明日」

『うん、おやすみ』

電話を切ったあと、スマホが熱かったのは古いバッテリーのせいなんかじゃない。わかりやすくにやけていると、後ろから鋭い視線を感じた。

「私のこと放置しすぎじゃないですかね?」

振り向くと、早坂が膨れっ面で立っていた。