とりあえず、溺れとく




彼は水に溺れた。彼は水がすき。彼は、もう、泳がない。



彼は縛られていて、お母さんの言うことがすべてと化しているから。



だから彼は、溺れたがり。





死ぬ直前くらい、死ぬ瞬間くらい、溺れたいんだって。水で死にたいんだって。





そのとき、不自由はこぼれ、どこかへ流れて。しがらみがすべて水に溶けて。



幸せになりたいんだって。





彼は時折、わたしの首をみつめる。



1度だけ、ハルキくんの手がかかったことのある、この首を。