くるり、背を向けて歩き出したそこをずっと見ていた。

けれど、振り向くことはなかった。



ただ突っ立って、伸ばせなかった腕が力を失って地面を向いていた。


大切なものは失ってから気づくんだ、
そんなことをハッピーエンドで終わる映画の中盤で聞いたことがある。

どんな夢物語だよ、バカにしてた。




「コンビニ行くけど、何か買う?」


最初の頃は一緒について行ってた、去年の今頃は帰り道でアイスふたつを半分に分けて食べてた。

アイスが溶けてしまう前に早く食べる俺を見て楽しそうに笑っていた、
結局自分のが溶けて焦っているそこをよく写真撮って笑っていた。


気づけばひとりで行かせていた。
俺は自分の部屋から出なかった。



女子って大変だよな、

夏は汗でメイクが崩れるから嫌い、
そう言って俺の家について早々ポーチからいろいろ取り出して鏡とにらめっこしていたその姿を見て笑ってた。

メイクなんてしなくてもかわいいよ、なんて思ってたことは言えずに、自分のために努力してくれるその姿がいとおしいと思っていた。


今日も相変わらず同じ動作を繰り返していた。
けど俺は、その横でスマホゲームと向き合っていた。



電柱に背中を預けた。

ここから動く気には到底なれなくて、
もう姿の見えないそこをずっと見ていてもまた可笑しそうに笑って俺の名前を呼ぶ冬優は帰ってこなかった。