悪女。まあ悪役令嬢の亜種みたいなものか。ならばそう間違っていないかもしれない。

 そんなことを少しふざけて考えクスリと笑うアリシアに、カーラは「でも……」と神妙な面持ちで続ける。



「あなた、すっごく良い人だったんですね」


「え?」


「だってそうじゃないですか。こっちがしたこと、怒って当然なのにそうせず事情を聞いて許そうとしてくれるし、しかも母さんのファンだとか言ってくれるし……」


「ふふ……まあジルさんのファンなのは事実だから」



 ジルの娘であるカーラに会いたかったというのも本心だ。アリシアは少し照れたように笑う。

 だが、すぐにその笑顔を消して「だけど」とまっすぐカーラの目を見る。



「わたし、『許す』なんて言ってないわよね?」


「え……」


「あの苦いお茶、飲んだ後しばらく舌が痺れて大変だったわ。周りに心配されないよう平然とした顔でいるのにはかなりの精神力が必要だったし。それからバルコニーの上から大量の水を落とされた時、あと一歩前にいたら全身びしょ濡れだったでしょうね。お風呂に入った直後だったのに」


「あ……」


「破かれた服は修繕すれば着られるかもしれないけど、無駄にうちの使用人の仕事を増やしてしまうことになるわ。その分通常の仕事に時間が割けなくなるかも」