本来というのはもちろん、前世で愛読していた少女漫画『黒髪メイドの恋愛事情』のストーリーで、という意味だ。

 しかし、ニーナと同じように前世の記憶を持ったこの世界でのアリシアは、漫画の中のキャラクターとはずいぶんと異なっており、自由奔放でよく笑い、誰に対しても優しく素直な人物になっていた。

 そして何より漫画と異なるのは、イルヴィスがそんなアリシアに向ける表情だろう。

 漫画では、第一王子イルヴィスの婚約者となったアリシアは、どうにか彼に愛されようと奮闘するも、彼は少しも興味を示さない。だがこの世界では、冷酷な人物だと言われているイルヴィスがアリシアの前では優しい表情を浮かべている。

 アリシアに言わせれば、イルヴィスが冷たいと思われてしまうのはその美しい顔立ちのせいなのだそうだ。だが、ニーナから見れば、実際アリシア以外の人間に対しては結構冷たいのではないかと思う。


(でも考えてみたら、いつの間にかあたしも漫画のストーリー通りに進まないこの世界を受け入れられるようになってきたんだなあ)



 以前の自分なら、漫画のストーリーと異なる展開を認めたがらなかっただろう。漫画のストーリーに沿うことが、一番皆が幸せになれると信じていたのだから。