「ニーナですか。服装からして今日は休暇のようですが、何か用でも?」


「ええと……用ってわけでもないけど、特にすることがないから、ここに来たらアリシア様の淹れるハーブティーにありつけるかなって思いまして」



 でも今日はいらっしゃってないみたいですね、と残念がると、ミハイルは怪訝そうに言った。



「アリシア様は今この国にいませんよ」


「……え?」


「隣国のルリーマ王国の王子から招待されて、昨日からイルヴィス王子と共に出かけていますよ。聞いていないんですか?」


「んー、そういえばイルヴィス殿下は不在だという話を聞いたような」


「城で働いていていながら王子への認識がそんなぼんやりで大丈夫ですか……」



 与えられた仕事をするのにいっぱいいっぱいだし、王子に関してはデュラン以外にそんなに関心がない。だからついつい聞き流していたのだろう。

 だがアリシアまで不在となると、お茶を飲みながらのおしゃべりもしばらくお預けか。

 ピュアで鈍感なアリシアと、優秀だが冷酷な美形のイルヴィスの恋愛模様を見守るのはなかなか楽しいのだ。


 本来、あの二人は大した親交を深めることもなく婚約を取り消すはずだった。