「お嬢様!大変です!」



 夕食を終え部屋に戻ったアリシアに、ノアが血相を変えて駆け寄ってきた。



「どうしたの?」


「申し訳ありません!少し部屋を出て戻ってみると、お嬢様のドレスが……!」



 風呂に入ってから着るためノアに出しておいてもらったワンピースが、大きく切り裂かれていた。

 さらに、部屋の中もあちこち散らかされていて、無惨な様子になっている。



「……盗まれた物とかはないのね?」


「はい、恐らく」


「部屋を荒らすことだけが目的という感じの荒れ方だものね」



 アリシアはふうっと息をつき、バルコニーの方へ足を進める。

 置いてあった小さな観葉植物の鉢も割られ、土が散乱している。植木鉢の欠片をそっとつまんで、ノアに言った。



「ワンピースは替えがいくつかあるからそれを用意してちょうだい。それから新しい植木鉢を借りてこられないかしら。この植物が可哀想」


「かしこまりました。あの、お嬢様」


「さっきもね、わたしの分の紅茶だけ信じられないぐらい苦かったの。やっぱりお茶は美味しく飲むものよね」



 わたしも前みたいに仕返しのために苦いお茶淹れるのは止めよう、とアリシアは力なく笑う。



「いったい誰がこんなことを……」



 呆然とした様子のノア。アリシアにだってそれはわからない。