何一つ証拠はないし、もし彼女の企みだったとしても、彼女が自分の手で紅茶を淹れたとは考えにくい。

 やるのなら、そうするよう指示を出した程度。お茶を淹れた者が勝手にやったのだと片付けられて終わりだ。


 アリシアは無意識にディアナを注視していたらしく、その視線に気がついた彼女が笑みを浮かべた。



「どうかしましたか、アリシアさん」


「あの、紅茶が──」


「紅茶?」



 不思議そうに聞き返すディアナを見て、アリシアは口をつぐんだ。

 その表情は、演技などではなく、心底不思議そうだった。彼女ではない。



「いえ、何でもありません。美味しい紅茶ですね」


「まあ、気に入って頂けたようで嬉しいですわ。お茶係のカーラはいつも美味しいお茶を淹れてくれますのよ」



 アリシアは「そうですか」と微笑み、怪しまれないよう少しずつ苦い紅茶を飲んだ。

 舌から食道にかけて痺れるような感覚を覚えながらも、どうにか表情を変えずに飲み干した。



 ──しかし、これは始まりに過ぎなかった。