アリシアの手を優しく握る、細いながらもしっかりとした指。少し熱を帯びた緑色の瞳。唇に触れる柔らかな感触。


 もうあれは、かれこれ一週間以上前のことになるだろうか。

 一度だけ、それに一瞬触れるだけのものだったし、その後イルヴィスは何事もなかったかのように平然としていた。もちろんアリシアも懸命に平静を装っていたが、実は心臓が飛び出そうなほどドキドキしていて、彼の顔をまともに見ることができずにいた。


 今もニーナが指摘する通り、ラベンダーティーの香りをかぐだけで唇の感触が蘇って頬が熱くなる。



「あのぉ、アリシア様……その、キスだけですか?それも一瞬の」



 恥ずかしさに悶え、頭を抱えるアリシアに、ニーナは恐る恐るといった感じで尋ねる。



「え?そうだけど……」


「なんだぁ」



 何故かニーナはガッカリしたように天を仰いだ。



「あーえっと?男が好きでもない相手にキスできるのか、でしたっけ?さあ、できる人もいるんじゃないですかー?あたしは男じゃないので知りませんけど」


「いきなり雑じゃない?」


「だってもっとカゲキな感じの期待してたので」


「過激?」


「うーん、そうですね。例えば……」