「イル様の侍女の方ですわね」
あまりに無邪気な微笑みに、アリシアの表情は少し引つる。
侍女。そのように見えるのか。
「ディアナ。彼女はアリシア・リアンノーズ。……イルの婚約者だ」
カイが、どこか恐る恐るといった様子でアリシアを紹介する。
「アリシア殿、こちらは俺の妹で、第一王女のディアナだ」
「兄さん」と呼んでいたからそうだろうと思っていたが、やはり彼女はカイの妹か。
カイとは目の色以外はあまり似ているように思えないが、その気品溢れる雰囲気には、王女だと言われれば言われた全員が納得するだろう。
改めて挨拶をしようと彼女を見て、アリシアは思わずギョッとした。
ディアナの瞳から、ポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちていたのだ。
「ディアナ王女……?」
「うぅ……ごめんなさい。その、イル様の婚約が決まったという話はうかがっていましたし……理解はしていたつもりだったのですが……こう実際に目の前にしますと……」
ディアナは、途切れ途切れにそう言い、自分の手で涙を拭うと、踵を返して駆け出した。
「ディアナ!」
妹の名を叫んだカイが、その後を追いかけようとする。