彼はさらにその端正な顔をアリシアに近づけ、耳元でささやくように言う。
「……人目があろうがなかろうが、私以外の男が貴女に触れるのは、不快だ」
すぐそこにいるカイにすら聞こえないような小さな声だが、アリシアの耳にはしっかりと届いた。
「それ……は……」
にわかに体温が上がる。じんわりと噴き出す汗の量が増えたのはきっと気のせいではない。
彼は、外聞の問題ではなく、純粋にアリシアが他の男に触れられるのが嫌だと言っている。つまりそれは……
『イルヴィス殿下の気持ちは、聞いておいた方が良いかもしれませんね』
ニーナに言われた言葉が頭に響く。
今なら聞けるだろうか。彼がアリシアのことをどう思っているのか、それからあの日のキスの意味も──。
アリシアは、自分でも不安なのか期待なのかよくわからない複雑な感情を胸に、ゆっくり口を開く。
「あの、殿下にとってわたしは……」
──どのような存在ですか?
たったそれだけの言葉が、何故か滑らかに出てこない。薄く目を閉じ、どうにか続きを言おうとしたその瞬間だった。
「あっ、やっと見つけましたわ!カイ兄さん、そしてイル様」



