カイは、いつもの無邪気な笑みとは違う、例えるならイタズラを思いついた子どものような笑顔を口元に浮かべた。
「だってそうだろう?俺とアリシア殿が少しでも親しげにしていると不安になって、いちいち牽制してくる。夫婦になることが約束されているにしてはずいぶん余裕がない」
「……」
無言でカイを睨みつけるイルヴィス。
何やら雲行きが怪しい。しかもどうやら原因は自分のことらしいと感じ取ったアリシアは、「あ、あの!」と二人の間に割って入る。
「えっと……たぶん問題なのは、わたしが他の男と必要以上に親しくして変な噂が立ってしまうことだと思います。ここはまだ大丈夫でも、人目のある場所で同じようにしていては不味いので、殿下は注意なさったのかと」
「ふうん、なるほどな」
アリシアの説明に、カイは「とりあえず納得した」というようにうなずく。
「貴女が言うならそういうことにしておこう。不用意に触れないよう努力する」
話はそれで終わったらしく、アリシアはほっと胸を撫で下ろした。
そしてまた鮮やかなハイビスカスの花々に目を戻したとき、グイと腕を引かれた。驚いて引かれた方を見ると、まっすぐこちらを見つめるイルヴィスの緑の瞳と視線が交わった。



