第一王子に、転生令嬢のハーブティーを II




 イルヴィスが噂のような冷たい人物ではない。そのことは、婚約して、共有する時間が増えて、ようやくわかった。

 だけど彼の幼なじみカイは、きっとそんなことはずっと前から知っていたのだろう。



(わたしも、もっと彼のことが知りたい)



 そんな気持ちがアリシアの中でどんどん大きくなっていく。それに気づいて、そっと胸の辺りに手を当てる。



「アリシア?」



 静かなアリシアに気がついたらしいイルヴィスが声をかけてきた。

 アリシアはその声にハッとして笑顔をつくる。



「ごめんなさい、何だか感動しちゃって。でもそろそろ戻った方がいいですかね」



 きっとノアは怒っているであろうし、早めに戻って少しでも怒りを抑えてもらおう。

 アリシアは、先ほどの気持ちを切り替えるようにゆるく首を振る。

 そして、転ばないように気をつけながら向きを変え、転ばないように気をつけながらゆっくり砂浜の方へと向かう。そう、とにかく転ばないようにだけは気をつけていた。


 だが、気を付けたつもりでも避けられない災いだって存在する。



「わっ」


「アリシア!」



 濡れた砂は足にまとわりつくような柔らかさで、簡単にバランス感覚を奪ってくる。さらに、砂から脱したところで足があるのはまだ水中なので、体勢を戻すのも難しい。