イルヴィスは面倒くさそうに頭をかいてから、「わかった」と諦めたように靴を脱いだ。
「これでいいだろ?」
「うむ、では走るぞ!」
カイはそう言うと二人の手をガシッとつかみ、走り出した。
アリシアは驚き、バランスを崩しそうになりながらも何とかついていく。
彼は波が届かないギリギリの位置まで来てようやく止まった。
「カイお前……危ないだろ」
「まあまあそう怖い顔をするな!そんなことよりさあどうぞ、アリシア殿」
カイはにっこり歯を見せて、アリシアの手をそっと離した。
アリシアはごくりと唾を飲み込み、スカートの裾を持ち上げながら、ゆっくりと海水の中へ足を踏み入れる。
「つめたっ」
初めて浸かる海水は、思ったより冷たい。だが、柔らかな波の揺れや、鼻腔をくすぐる潮の香りがものすごく気持ちいい。
(これが、海なんだ)
ずっと憧れていた海。目を閉じると波の優しい音が聞こえてきて、まるで自分が海と一体化したかのような気分になる。
「この感覚、懐かしいな」
アリシアと同じように足元だけ海の水に浸かっているイルヴィスが言った。



