「失礼ね、捨ててないわ。ミハイルさんとノアが飲んでくれているはずよ」
「別にあたしはラベンダーティーの行方を気にしてるわけじゃないですよ……」
はあっと息を吐いたニーナは、疲れたというようにカモミールティーをすすり、「あ、美味しい」と呟いた。
「で、何があったんですか?」
「何って?」
「知ってますかアリシア様。香りと記憶って強い繋がりがあるんですよ。例えばあたしは、コンソメスープの匂いで孤児院の夕食を思い出します」
「ああ、なるほど。確かにそういうことはよくあるわね」
「でしょう?特定の香りをかぐことで、以前その香りと共に経験したことが思い出されるんです。ところで……」
ニーナはニッコリと口角を上げる。
「先ほどアリシア様は、最初に淹れたラベンダーティーの香りをかいで顔を真っ赤にしてらっしゃいましたね。それから慌ててカモミールティーを淹れなおしてました」
「っ……」
「ラベンダーティーの香りで思い出す、耳まで真っ赤になってしまうような出来事って何ですか?」
アリシアは、ニヤニヤしながら見つめてくるニーナから思わず目をそらす。