ノアは両手で軽く頬を押さえて、気持ちを落ち着かせてから言った。



「からかわないでくださいお嬢様。その、で、デートっていうわけでは……」


「ふふ、いつの間にプライベートで遊びに行くほど進展していたのかしら」


「お嬢様!」



 既に二人が想いを伝え合った可能性もゼロではなかったが、この反応を見た限りまだそこまでではなさそうだ。


 お互い想い合っており、何となく察しているにも関わらずまだ決め手となる言葉はない。少女漫画なら一番甘酸っぱくてドキドキするところだ。


 さらに問い詰めてやろうかとアリシアが口を開きかけたとき、馬車がゆっくり止まった。


 王都に着くのは昼頃だという話だったが、今日はまだ出発して一時間も経っていない。何かのトラブルだろうかと外に目を向けると同時に、コンコンと戸が叩かれた。


 開けるとそこには、前方の馬車に乗っていたはずのカイが、いたずらっぽい笑みを浮かべて立っていた。



「アリシア殿、少し寄り道をしていかないか?」


「寄り道ですか?……わっ」



 首を傾げるアリシアは、カイに手を強くつかまれ、そのまま勢いよく引っ張りだされた。

 思わず目を瞑ると、彼のがっしりとした力強い腕に抱きとめられた。