ふんわりと湯気の立つティーカップ。

 ほんの数日前まで、こうやってお茶を淹れるのはカーラの仕事だった。


 彼女がいなくなった今、きっとすぐに次のお茶係が雇われるのだろう。


 だが今日は、そんなお茶係の代わりに、色々あった末に友達になった、隣国の伯爵令嬢がディアナにお茶を淹れてくれている。

 貴族の令嬢ならば、お茶は淹れる側ではなく飲む側だろうと思っていたが、彼女はお茶を淹れるのが得意らしい。


 慣れた手つきで用意されたティーカップをアリシアから受け取った。


 ゆっくり口を近づけ、一口すする。

 すると口いっぱいに、紅茶ならではのほのかな甘みと豊かな香りが広が──



「にっっが!!」



 ──らなかった。

 そのお茶の味は、ディアナが想像するものとはかけ離れていた。

 苦い。苦すぎる。これまでの人生で口にした何よりも苦い。



「な、何ですのこれ……」



 ゴホゴホとむせながら問う。

 よく吐き出さなかったな、と近くにあった水を飲みながら思う。


 アリシアはそんなディアナを見て満足そうに笑った。




「『アリシアスペシャル・ルリーマ王国ver.』です」


「何ですって?」