差し入れと称してハーブティーを届けたアリシアが、しばらくしてそっと操縦室をのぞくと、船長が飲みかけのティーカップのそばで倒れ込んでいるのが見えた。



(良かった、怪しまずに飲んでくれたのね)



 彼がきちんと眠っていることを確認して、なるべく音を立てないようにその場を去り、荷物の積んである場所まで移動する。

 そこそこ効き目の強い薬のようなので、ちょっとした物音くらいで目を覚ましたりはしないだろうが、用心するに越したことはない。


 荷物に掛けられている、テーブルクロス二枚分ぐらいの大きさの赤い布を見つけて手に取り、適当に折りたたんでまた甲板へ出た。

 帆先の方では、ディアナが荷物の中にあった衣服やどこから持ってきたのか木材といった、煙の出やすそうな物を懸命に燃やしている。


 しかし残念ながら、助けを求められそうな船はまだ現れない。



(もしも、誰も現れないまま薬の効果が切れたらどうしよう……)



 あの状態で目を覚まされたら、恐らくアリシアがハーブティーに睡眠薬を盛ったのがバレる。そうなっては何をされるかわからない。

 もしこのまま助けを求められそうなものが何も現れなければ、折を見て切り上げ、「アリシアとディアナもお茶を飲んだ後眠くなり、一緒に眠ってしまっていた」というふりをしておくのが最善策か。