何の表情も浮かべず、淡々とした調子でカーラは言った。



「火を……」


「この国では少し有名な、15年前に起きたクラム公爵家の放火事件。その犯人はアタシの母さんだったんですよ」



 犯人はわからずじまいだったはずのこの事件。アリシアは信じられない事実に目を見張った。



「罪の意識はあるけれど、自分の人生をめちゃくちゃにした人へ復讐したことは後悔していない。母さんはそう言っていました」


「そんな……」


「母さんが書いたあの自伝小説には、まるで仕事のために生き幸せな人生を送ったかのように書いてありました。だけどあれは、母さんが思い描いていた理想の姿。実際はもっと苦しく、振り返ってみて幸せとは言い難い生涯だったと思います」



 カーラは、「母さんのファンだと言ってくださっていたのに夢を壊してすみません」と軽く目を伏せた。

 アリシアは何を言って良いのかわからず黙り込む。



「で、ほんの数週間前のことなんです。この女(ディアナ様)がその火事で死んだはずだったクラム公爵家の娘──アタシの腹違いの妹だと知ったのは」



 母の話をしている時は、淡々と、でも少し寂しそうにしていたカーラが、今度はトゲのある口調で言った。