身分が釣り合わないとはわかっていながらも、ジルは公爵に惹かれていった。次第に二人の仲は深まっていき、やがてジルは公爵との子を身ごもった。

 しかし、ちょうどそのタイミングで、クラム公爵は妻をめとった。王妃のはとこである、身分の高い美しい女性だった。

 ジルは本気でも、もともと公爵側は遊びであり、彼女はあっさり捨てられた。

 ジルはショックを受けながらも、お腹の子を一人で産み育てる決意をする。子を産んだ後王宮のお茶係に復帰することができ、どうにか母娘二人暮らしていくことはできた。それでもやはり、暮らしは辛いものだった。


 彼女はある日、とうとう我慢できずに公爵の元を訪れた。少しでも金銭的援助が受けられないかと相談したが、相手にされなかった。

 その子ども(カーラ)が自分の子である証拠でもあるのか……。残念ながらカーラは公爵には似ておらず、ジルは説得できなかった。

 そして帰り際、産まれたばかりの赤子をあやす、幸せそうな公爵夫人の姿が目に入ってきた。

 それを見た瞬間、ジルの中で、自分でも制御できないほどの色々な感情が爆発した。



「そしてその夜──母さんはクラム公爵家の屋敷に火を放った」