「……なんて言っても、それがわかったところで何かできるわけでもない。ディアナは王女で俺の実の妹だと、国民も本人も信じている」


「カイ様はそれで良いのですか」


「良いも悪いも、そうするしかない」


「ですがっ……」


「アリシア殿」



 カイはアリシアの声を遮るようにはっきりと名前を呼び、真剣な眼差しを向けてきた。



「アリシア殿、頼みがある。このことはどうか本人にも言わないでくれ。ディアナには、どんなに僅かでも『自分が王女ではないかもしれない』などと疑ってほしくないんだ」


「それは……ディアナ王女をこの先もずっと騙し続けるということですよね?」


「騙す。そうなるな。だがあいつには、何も知らず幸せに生きていてもらいたいんだ」



 妹の幸せを願う兄としての気持ちか、愛する女の幸せを願う一人の男としての気持ちか。

 いずれにしろ、彼の真剣な思いを無下にする理由などなかった。



「わかりました。それにそもそも、わたしがディアナ王女にそんな話をしたところで彼女が信じるはずありませんよ」


「はは、確かにな」



 声を上げて笑うカイの表情はどこか晴れ晴れしている。

 絶対口外してはならない秘密。だが、そんな秘密を持ち続けるのも辛かったのだろう。


 気付いたのがあなたで良かった。カイは聞こえるか聞こえないかの小さな声でそう呟いていた。