すっかり忘れていた。だが何となく予想はつく。



「カムフラージュですか?『隣の国で出会った女に恋をした』ということにしていれば、本当の想い人の存在を誤魔化せますし、結婚するよう周囲に言われた時に断る理由にも使えますから」



 アリシアは言いながら、たぶん間違いないと思った。しかし、カイは微笑を浮かべながら首を横に振った。



「違うな。その程度の理由なら、もっと前に違う女性を相手にそのような話を作っていた」


「確かに……」


「あなたのことを美しいと思ったのも、興味を持ち、もっと親しくなりたいと思ったのも本心だ。……少し期待したんだ、あなたへの気持ちが恋ではないかと」



 どこか寂しそうに、目を窓の外に向けながら言う。



「もしその気持ちが恋であれば、俺がずっと抱き続けていたディアナへの想いが恋ではなく、ただの家族愛だと自分に証明できる……そう思った」


「……」


「だが、あなたがイルの婚約者であると聞いた時、少しも残念だと思わなかった。むしろ、心の底から幼なじみを祝福できた。そのことが逆にショックだったんだ」



 結局アリシアへの気持ちは恋愛感情ではなく、どちらかといえば友人として仲良くなりたいという気持ちだったと気づいた。

 そして、同時にディアナへの想いが恋であると改めて実感させられる羽目になった。