王妃のことを深く愛している国王は、精神の参っている王妃が、本当に自ら命を断ってしまうのではと恐れ、この様子を見ていた者たちに固く口止めをした上で、王妃の望みを受け入れた。

 そして、その赤子には、王妃の本当の子が女だった場合に付けられる予定だった、「ディアナ」という名前を付けた。



「ディアナを抱えて城を訪ねてきたクラム家の使用人には、多額の金を渡し、どこか王都から離れた場所へ行くように命じた。それからクラム家の家々に残っていたディアナについての記録などは片っ端から処分したはずだ……ったんだがなぁ」



 まさか、まだ使用人の書いた日記があの屋敷に残っていたとは……とカイはため息をついた。

 ディアナの正体を知る人物は少数であるため、その証拠を探すのには幼かったカイまでも協力していたらしい。現在ハーリッツ家が買い取りレミリアたちが住んでいるあの屋敷にも、何度か来たことがあったそうだ。



「そういば屋敷に何度か来たことがあるようなことをおっしゃってましたもんね」


「ああ。今日久しぶりに訪れて、何だか懐かしかった!」



 カイは悪戯っぽくそう言って、それから思い出したように首をかしげた。



「そういえば、俺が何故、あなたのことが好きなどと嘘をついたのか……というのは聞かないのか?」