ハーリッツ家に泊まっていた間に満足のいくまで街へ遊びに出ていたし、可能性としては低いような気がする。



「まさかディアナが何か……」



 イルヴィスがノアにはよく聞こえないような小さな声でボソリと呟く。

 何と言ったのかと尋ねる前に、彼はまたノアに目を向けた。



「私も探そう。この城も広い。案外どこかで迷ってしまっただけかもしれない」


「はい。ありがとうございます」



 彼のありがたい申し出に礼を言い、再び捜索を始めようとしたときだった。



「イル!」



 廊下の向こうから、青い髪をしたこの国の王子が走ってきた。

 こちらも何やら思い詰めたような表情をしている。



「カイ?どうした」


「なあ、ディアナがお前のところに行っていないか?」


「……今日は一度も見ていないが」


「そう、か」



 イルヴィスの答えを聞いたカイは、あてが外れたというように顔を曇らせる。



「あの、何かあったのですか?」



 思わずノアが聞くと、カイはぐしゃりと頭をかいて言う。



「いないんだ……どこにも」


「いない?」


「いつもディアナの身支度をしているメイドが今朝部屋に行ったところ、ディアナがいないと騒ぎ出したんだ」