周囲に目を配りつつあちこちを歩き回るノアは、傍から見ればかなり不審なようで、こちらを見る城の使用人たちの目は一様に訝しげだ。

 そして、とうとう後ろから声をかけられた。



「何をしている?」



 もうだいぶ聞き慣れた、凛とした声。

 振り返ると、いつどの角度から見ても美しいアリシアの婚約者が、その緑の瞳をノアに向けていた。



「イルヴィス殿下」



 ノアは慌てて頭を下げ、それから焦った声で尋ねる。



「あの、アリシアお嬢様がどこにいらっしゃるかご存知ありませんか?」


「いや……いないのか?」


「はい。昨夜からずっと見当たらなくて」


「今朝早くまでは私の部屋にいたが……」


「えっ」


「あっ、いや……昨夜少し体調を崩してな。看病してくれていたらしいんだ。お陰で今朝には回復した」


「ああ、そういうことでしたか……」



 ノアは少しほっとするが、同時に「今朝早くまで」という言葉に、今はそうでないことを察する。

 その証拠に、イルヴィスの顔にもわずかに焦りのような色が浮かんだ。



「一人でどこかに出かけたという可能性は?」


「なくはないと思いますが……」