広く海に面したこの国は、海路が発達しており、たくさんの商船が行き来している。その中には、表で普通の商売をしていても、金さえ払えば何でも運ぶような裏の取引を行う連中もいる。

 そのような連中に十分な報酬を渡し、アリシアが二度とイルヴィスの前に現れることができないよう、どこか遠くの国へ連れていかせる。

 要するに昨夜ディアナが血の上った頭で思いついた計画とは、彼女を誘拐して行方不明にする計画だ。



(イル様。たとえあなたがどんなにこの女を愛していようと、行方不明になったのでは妃にすることはできませんわ。そうなったら今度こそ──私を選んでくださいますね?)



 ぎゅっと拳を握って、ディアナは心の中で愛する人に語りかける。

 正しいことをしているとは思っていない。しかし、もう自分止める術は知らなかった。



「行きましょう」



 力強い声で、自らを奮い立たせるように言い、歩き出す。


 その後ろで、気絶したアリシアを背負う協力者が、ニヤリとほくそ笑んでいたことを、この時ディアナは知る由もなかった。