(あああああ……)



 なかなか熱の引かない頬を押さえながら、アリシアは早足で歩いていた。



(よく考えたら看病のためとはいえ、一晩中殿下のそばに……)



 昨夜。

 この城に戻ってきたアリシアは、姉に宣言したということもあり、すぐにでも気持ちをイルヴィスに話そうと思った。遠回しに、ふんわりとで良いから伝えたかった。

 しかし、いくら婚約者といえどこの時間に訪ねて行くのはいかがなものかと、彼の部屋に近づくにつれ怖気付いてしまった。


 そんな時、誰かがすすり泣きながら、イルヴィスの部屋の方から走ってきた。

 ふわふわとした、茶色に近い金髪の少女。ディアナだ。


 ディアナは少しもアリシアに気づく様子もなく駆けて行き、その場にはすぐに静寂が戻った。

 気になって彼女が駆けてきた方を見ると、部屋の扉の前でうずくまる人物がおり、何となく嫌な予感がして近づくと、その人物はイルヴィスだった。

 彼は少し触れただけですぐにわかるような高熱で、ほどなくして意識を失っていた。

 先ほどディアナが泣きながら走り去って行ったことと何か関係があるのか。アリシアと同様、倒れたイルヴィスを見つけ、助けを呼びに行っていたのだろうか。