ディアナが彼を恋慕っていることは、この城の人間なら誰もが知っている。

 いつかきっとイルヴィスの妃になれる。ディアナを含め、皆きっとそう信じていた。


 ──だが、国王である父に、その希望は砕かれた。

 父は、ディアナが他国へ嫁ぐことを許さなかった。自身が懇意にしている貴族の家へ嫁がせようとしていた。

 父に反対されたことはショックだったが、これは譲れなかった。

 何度も何度も、嫁ぐのはイルヴィスの元が良いと訴え続けた。

 相変わらず答えはノーだったが、ほんの少しずつ父の気持ちを変えられているような実感はあった。


 ……そんな中で飛び込んできたのが、イルヴィスが自分の国の貴族の娘と婚約したという噂話だった。

 その話を聞き、どうやら事実であるらしいと知った時、ディアナは鈍器で頭を殴られたぐらいの衝撃を受け、しばらく何も考えられず自室にこもった。

 顔も知らないイルヴィスの婚約者を、結婚を認めようとしなかった父を、ディアナは恨んだ。

 彼のことをどうしても諦めたくない。絶対に。

 泣きながらもその決心を固くしたディアナにとって、今回久しぶりにイルヴィスこの城を訪ねてきたことは、またとないチャンスだった。