アリシアに手出しさせるわけにはいかない。

 そう思ってこう言った。


『私は何も変わっていない。婚約者ができたくらいで遠い存在になったりはしないから安心しろ』


 その言葉はディアナを満足させたらしく、彼女は目を輝かせながら何度もうなずいた。

 だが、満足したように見えた彼女も、さすがにその言葉だけで納得はしていなかったらしい。


『それが本当なら、昔と同じように、私のことを一番に見て、私と過ごす時間を何よりも優先してくださいますか?』


 ディアナ自身にも、これはわがままだという自覚はあったらしく、この城にいる間だけで構わない、とすぐに付け足した。


 結局、少し戸惑ったものの、ディアナと共にいる時間が増えれば彼女がアリシアに手出ししないよう見張りやすくなるだろうと思い、イルヴィスはそれを了承した。


 ……後悔したのは、ディアナが想像していた以上の時間ベッタリくっついてきても、その約束を引き合いに出され、今のように拒絶できなくなってしまったことだ。



「わかった。だが、紅茶だけ飲んだらすぐに部屋へ戻ると約束しろ」



 今回も諦めて、イルヴィスは部屋の戸を開けた。

 疲労が隠しきれない様子の従者に、今日はもう下がって良いと告げ、ディアナを部屋に通す。