部屋のバルコニーから空を見上げれば、そこには半分ほど欠けた月が輝いていた。

 日中は自国に比べてかなり暑いように思われるこの国も、夜になれば気温が下がり風が心地よい。

 こうもゆっくりとした時間を過ごすのはいつぶりだろうか。自分がいない間に公務が滞っていなければ良いが。

 少し不安を感じかけたところで、イルヴィスは考えるのをやめた。

 国に帰ればまた忙しい日々が始まるのだから、今くらい何も考えずゆっくり過ごしたってバチは当たらない。



(そういえばアリシアは今晩戻ってくるということだったが……もう戻ってきたのだろうか)



 数日この城を離れ姉に会いに行っている婚約者のことを思い、わずかに笑みを浮かべる。こちらに来てから思うように彼女と過ごせず少々不満だった。

 だが恐らくそう思っているのは自分だけなのだろう。

 ここへ来るまでの移動時間でさえ、あそこまで楽しそうにしていた彼女のことだ。きっとグランリアにはない珍しいものでも見つけては目一杯楽しんでいることだろう。



「殿下」



 しばらく何をするでもなく夜空を見ていると、部屋の戸をノックする音と従者の声が聞こえた。



「どうした」


「ディアナ王女がいらっしゃっております」


「ディアナが……」