いつも通りの明るい笑顔。
その笑顔にアリシアは一瞬目を逸らしてしまう。だが、ゴクリと息を飲み、何とかまた目を合わせて言った。
「カイ様。あなたは、わたしに一目惚れした、とおっしゃっていましたよね」
唐突な問いに、カイは数回まばたきをして首をかしげる。が、すぐいつもの調子で言う。
「ん?改めて言わせようとしているのか?そうだ、俺は貴女が幼なじみの婚約者であることを知らず、愚かにも恋に落ちてしまったんだ」
少し照れたような穏やかな声色が、アリシアには白々しいように思える。
「……それ、嘘ですよね。カイ様はわたしに恋してなんていない」
カイの動きが、一瞬ピタリと止まった。
「嘘?何故だ?俺は容姿だけでなく心まで清らかで美しい貴女のことを本気で……」
「なら何で」
アリシアは彼の言葉を遮り、彼の手を取った。
「どうして、今日はわたしに触れないんですか?」
「……」
「婚約者のいる女に不用意に触れるような真似はしませんか?そんなことはないですよね。イルヴィス殿下が一緒にいらっしゃる時は何度も手を握られましたもの」
「そ、それは……流石に、本人のいない時にその婚約者に手を出すのは卑怯だと思い……」
今度はカイが目を逸らした。アリシアは息をついて、そっと彼の手を離す。