「だけどノア、ありがとう。心配してくれているのよね」


「心配ですよ。今日だって、お嬢様は彼女にお茶を振る舞うとだけ言って、わたくしを同席させてくれませんでしたし」


「だってノアたちが顔を合わせたら、そのたびに険悪なムードになるんだもの」



 ノアはニーナのことを嫌っている様子を隠そうともしないし、ニーナはニーナで笑顔を浮かべながらもノアに対しては冷めた態度をとる。

 信頼のおける侍女と特別な友人の仲が悪いなんて、こちらの身にもなってほしい。



「別にニーナさんのことを好きになれとまでは言わないけど、もう少し柔らかい態度をとってあげたら?」


「いくらお嬢様の頼みであっても、正直あの女に優しくするのは難しいです。お嬢様に酷いことをした件を抜きにしても、彼女とは少し合わないんです」



 ノアは愚痴るように言って窓の外を見る。それからハッと気がついたようにアリシアへ視線を戻した。



「すみません、お嬢様にとってはあれでも大切なご友人なのに……」


「いいのよ、誰にだって苦手な人の一人や二人ぐらいいるわ」



 アリシアがそう言ったちょうどその瞬間。

 ガタッと音がして、馬車がいきなり停止した。



「わっ」



 慣性でグッと前のめりになる。