「そうだアリシアちゃん、台所に置いてある睡眠薬取ってきてくれない?」


「ええっ、睡眠薬!?良くないですよ!お腹の子のこともありますし、そうでなくてもよっぽどのことでもない限り眠るのに薬を頼るなんて……!」



 妹に怒られたレミリアは、「ええ……」と上目遣いで見上げてくる。



「実はこの家に来たばかりの頃、突然実家から遠く離れたっていう不安で眠れないことがあってね……そのころに何度か使ったお薬が残ってるのを今日見つけちゃって……」


「残しておいても仕方ないから飲んじゃおうって思ったわけですか?」


「……ええ」


「もうっ、そんなものいらないなら捨てちゃえば良いじゃないですか!大事な時期なんですからもっと自分の体に気をつけてください」



 アリシアははあっとため息をついて、二つのカップが載ったトレイを持つ。



「とりあえずその睡眠薬は回収しておきます。眠れない時はラベンダーの香りやカモミールティーをオススメしたいところですけど、どちらも妊娠中はよくないですね。ホットミルクのお代りか、ローズヒップティーでも淹れてきます。姉様は先に横になっていてください」


「そうね、じゃあお願い」



 アリシアはランプを一つ持って暗い廊下へ出る。途中クラム公爵の幽霊の話を思い出してビクビクしながら台所へ行き、薬を回収する。そしてローズヒップティーを淹れ、やっとのことで部屋へ戻ってきた。


 しかし、「眠れない」と言っていたはずのレミリアは、すでに気持ちよさそうに寝息をたてていたのだった。