アリシアの脳裏に、親しげにしているディアナとイルヴィスの姿がよみがえる。

 そして、ある可能性に気がついた。



(本来結婚しているはずの二人なのだから、本当はディアナ王女の片想いではなくて、想い合っているんじゃないかしら……?婚姻は彼女の父である国王が認めなかったから成立しなかっただけで……)



 そしてイルヴィスは、アリシアとの婚約が決まるまでディアナへの未練を断ち切れずに、縁談を断り続けていたのだとしたら。

 アリシアはディアナを諦めるために決めた婚約者なのだとしたら。



(ありえる、かも)



 また、あのモヤモヤとした感じが胸の辺りに広がる。

 ディアナにいつも向けている慈愛に満ちた表情は、恋心からくるものなのだろうか。



(嫌だ……)



 アリシアの胸に広がった感情。それは、はっきりとした嫌悪感だった。



「あの、お嬢様」



 思わずぐしゃりと手紙を握り潰しそうになった時、後ろからノアに声を掛けられて我に返った。



「その手紙は……」


「ああ、王室の方が使う封筒だったから驚いたけどニーナさんからよ」


「何か火急の用だったのでしょうか」


「えっと……」