ニーナの指摘に、アリシアはうっと口ごもる。


 イルヴィスと共に過ごす時間は楽しい。もし彼の隣にいられなくなったらと考えたら、嫌でたまらなかった。


 だけど──



「よく、わからない」



 圧倒的に経験不足だったんだろうと思う。

 あんなに愛されることへの憧れがあったのに、実際に自分のこととして考えるとわからなくなる。



「あの漫画で“アリシア”は愛されていなかったでしょ?だから何となく、現実の彼が優しくしてくれるのも、一緒にいて情が湧いたからかな、ぐらいに思ってて」


「つまり、婚約者同士でも恋愛感情はないと思っていたわけですね」


「ええ。いまだにわたしを婚約者に選んだ理由も教えてもらってないし」


「あれ?学園で成績優秀だったから妃の務めも上手く果たすだろうと思われたからでは?」


「それは漫画の“アリシア”の話よ。実際のわたしはそこまで優秀じゃなかったもの」


「ふーん、そうでしたか」


「ねえ、これってやっぱりストーリーの強制力のようなものだったりするのかしら」



 アリシアは鬱々とした気分で尋ねる。

 しかしニーナは、首を振ってあっさり否定した。