先生の周りから影がいなくなったタイミングが、スタートのチャンスだ。

拓真君が水に潜り、そのタイミングをうかがう。

「環、手出して?」
悠介が言う。

私が手を出すと、悠介がぎゅっと握る。

「昔は俺、泣き虫だったからさ、注射の前とか、よくこうして環に手を握ってもらってたっけ」

懐かしい温もりがする。思えば悠介と手を繋いだのは何年ぶりだろう。

「スタートまで、このままでいい?」

私はこくりとうなずき、ぎゅっと手を握り返した。

そのとき、拓真君が水から顔を出す。

「今だ! 走れ!!」