彼女の笑顔は幸せそのものだ。

 詐欺だと思った。

 普段あんなに変人なのに、花屋の店員に扮した彼女はまるで聖母マリアさまだ。

「ありがとうございました〜」

 語尾にハートでも付けそうな彼女を見つめ、フワフワと気持ちが浮き立つのを感じた。

 *

 その日の夜。

 僕は夢見心地からアッサリと引きずり下ろされた。

 アルバイトを終えた後の彼女は、現在狂ったように漫画を描いている。

 夕食はドン引きだった。

 棚から出したカップ麺に湯を注いでかき込み、既に冷凍しておいた白米をチンする。それをカップ麺のスープに入れて食べていた。

 炭水化物に炭水化物の合わせ技で、野菜は皆無。

 インスタントにする事で料理は割愛。

 食事はただ空腹を満たすためだけの行為に思えた。

 花屋で見た店員は幻で、もはやどこにもいない。

 彼女は長い前髪をカラーゴムでくくり、瞳をギラギラさせている。

 ……うん。やっぱり変人だ。

 奇人変人。

 つけペンというやつを黒いインクに何度も付けて、ガリガリと線を描いている。ノリノリで歌まで歌っている。

 一瞬、危ないクスリでもやってんのか? と心配になったほどだ。