気付いたら「ゴウくん」と呼びかけられていた。

 ああ、オレのことか、と思い、隣りに立つ花純さんを見上げる。

「退屈させてごめんね?」

 コソッと囁かれ、彼女は横顔のまま眉を下げて笑った。ううん、と首を振る。

 金曜日。

 僕は彼女のアルバイトで花屋に来ていた。

 駅から近い場所に位置していて、店先の舗道はそこそこに人通りもある。

 花純さんの仕事は午後四時から午後七時までの三時間で、水曜日と金曜日のみシフトが割り当てられている。

 夕方から夜にかけての時間帯だと、お客さんの年齢層は主婦や小学生が大半をしめ、ときどき仕事帰りのサラリーマンも来るらしい。

 それ故に、男子高校生という来客は(まれ)だと花純さんは言った。

金曜日(きょう)はどっちにしても来ないんだけどねぇ……」

 まえに聞いた"赤いバラの王子さま"を想い、花純さんは花鋏(はなばさみ)でバラの茎をカットしていた。

 水曜日限定で一輪のバラを買う高校生の事だ。

 チョキンチョキンと切り花の茎を切り落とし、彼女は水揚げという作業をしている。