資料をざっと見て、示す。

「でも、ここら辺は良いと思うよ」

必死に褒めるこちらの考えなんて露知らず、栃葉は視線を動かそうともしない。

「なんで異動しちゃうんですか」
「あーうん、家の都合でね」
「それは聞きました。正武さんに教えて貰ってないことばっかりです」
「私じゃなくても教えてくれる人はたくさんいるよ」

異動希望を出すつもりはなかった。
というより、退職しようとした。

退職願を上司に提出したら、目を白黒された。

「え、結婚?」
「いや、相手いないんで」

すかさず突っ込みを入れてしまう。