きょとんとした顔をして。

パスケースを握りしめ、さっき飲み込んだ言葉を吐き出すことに決めた。

「人の恋愛話は玩具じゃないです。誰かの娯楽や暇つぶしの為にあるわけじゃない」

私が八橋さんだったら嫌だと思った。あくまで、私が。
噂になって、それに笑わないといけない。
笑って、答えて、受け流して。

「それは、八橋さんも同じですよ」

八橋さんの表情は変わらない。でも、一歩こちらに近づいた。

手を伸ばし、私のパスケースを握る手に触れる。
静かにそれを包んだ。

「ありがとう、ございます」

理由は分からないけれど、その言葉に込められた意味は、ひとつじゃないように思えた。