帰宅ラッシュを少し過ぎると駅の周りは閑散とする。

「婚約破棄が、よほど響いたんですかね」
『あ、もしかして芹ちゃん知らない? 断ったのセイちゃんの方だよ』
「……え?」
『久我財閥の爺さんが倒れたのは聞いた?』

久我財閥。
その血を引く末端の末端である八橋さん。
蔵馬さんも血を引く一人で、八橋さんの遠縁。

一般人の私が知るわけもなく、ましてや八橋さんがそのことを自分から話すわけもない。

無言が返答と取ったらしい蔵馬さんは、続ける。

『次期総代は決まってる。ひとつずつ異動して、空いたポストに誰が座るかって話になったんだって』