「彼女」
「……前、付き合っていた、婚約者さん?」
「ああ」

考えている。一体何を。

「いや、好奇心で聞いたので、言いたくなければ良いんですけど」
「彼女はその結婚に恋愛を求めていたので」
「八橋さんは、結婚に恋愛はいらなかったの?」
「人を好きになるって、人並みにならないとできないんですよ」

それはいつかも聞いた言葉。

小さな金色のフォークをひとつ林檎に刺して、こちらに差し出す。私はそれを受け取った。

「頂きます」
「どうぞ」

八橋さんも一欠片を摘んで口に運ぶ。