携帯の電源を切っていたら、アウトだ。

幾多は、携帯を人から見えないようにしてかけていた。




それも、涼子の携帯からだ。


廊下の奥の教室から、携帯の着信音が聞こえてきた。

「こらあ!山下!」

講師の怒声が、教室に響いた。


幾多は、教室の窓から、中を覗いた。

慌てて、携帯を切ろうと取りだしたが、

ディスプレイに映る名前に、思わず山下は携帯を、床に落とした。

幾多は少し口元を緩めると、携帯を切った。


そして、すぐに教室から離れ、塾からも出た。



「今夜が…山だな」

幾多は、月を見上げながら、真っ直ぐに、

今夜の舞台に向かった。



自分の携帯をちらっと見ると、まだ自分には電話が入っていなかった。


「まだいけるな」

幾多はフッと笑うと、

堂々と道を闊歩した。